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東京家庭裁判所 昭和50年(少)5724号 決定

少年 G・H(昭三三・八・九生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は

一  ○○大学附属高等学校の生徒であつたが

(1)  昭和四九年九月六日午後一時四〇分ころ、山手線外廻り電車の最後部車両に乗車して東京都豊島区○○×丁目×番×号国電○○線○○駅ホームに停車した際、ホーム反対側の○○線内廻り電車の最前部車両に乗車していた○○中高級学校生徒を発見し、従来から両校生徒間に対立抗争関係にあつたことから同乗していた同校生のA、B、C、D、E、F、G、H、I、J、K、Lと意思相通じ共謀のうえ、前記生徒に対し暴行を加えることを企て、内廻りの電車内に多数で押しかけ乗車中の○正○(一七歳)、○英○(一七歳)、○和○(一六歳)、○信○(一五歳)らに対して襲いかかり、同人らの身体に殴る蹴るの暴行を加えた後ホーム上で乱闘となり、逃げる同人らを追いかけるなどし、もつて数人共同して暴力行為をなし、その際○英○に対し全治一週間を要する頭部打撲の傷害を負わせ

(2)  昭和五〇年一月二七日午後六時三〇分ころ、東京都豊島区○○○×丁目××番×号国鉄○○駅3、4番ホームにおいて○○大学附属高等学校の生徒であるK、M、Dと意思相通じ共謀のうえ、同所に居あわせた○鐘○、○郁○、○元○、○英○、○仁○ら○○中高級学校の生徒と口論のすえ同人らに対しこもごも手拳や洋傘などで殴つたり足蹴りをするなどの暴行を加え、よつて○英○に対し全治約一〇日間を要する右下腿刺創を、○仁○に対し全治五日間を要する背面挫創を負わせ

(3)  同月二八日午前七時三五分同駅1、2番線ホーム中央売店附近においてI、K、N、Oらと共に新宿方向行きの電車を待つていたところ、ホームに入つてきた電車内に○泰○、○亀○、○成○、○寿○、○性○、○慶○ら○○中高級学校生徒がおり、同人らが少年らの方を指差していたことなどからIら一緒に電車を待つていた○○大学附属高等学校生徒らと意思相通じ共謀のうえ、こもごも木の棒、洋傘、手拳などで同人らに対し殴る蹴るの暴行を加え、○亀○に対し約一週間の通院加療を要する顔面打撲傷の傷害を負わせ

二  暴走族「○○」の○○支部の構成員であるが、昭和五〇年五月一〇日午後六時ごろから東京都○○区○○○×丁目×番××号喫茶店「○○○○」に支部長C他構成員二〇数名と集合したさい、支部長Cから、「友好暴走族である○○○○が○○連盟や○○グループと喧嘩をやるのでその応援に行く。○○連合や○○○○その他○○○○と○○○○以外の暴走族を見たら○○らしく突つ込め」などと指示されたことから共謀のうえ応援することを企て、

(1)  同日午後九時四〇分ごろ、東京都新宿区○○×丁目××番×号先○○街道○○○○交差点において、同所で車両の調整をしていた○田○治(一六歳)やそれを見ていた友人の○川○弘(一六歳)○木○幸(一六歳)の三名に「俺達は○○だ」と気勢を示して襲いかかり

(イ) ○川○弘に対し、その腹部を蹴とばし同人並びに同人の乗つていた自動二輪車(○○○××××)を転倒させて殴る蹴るの暴行を加え、さらに転倒した自動二輪車の風防ならびにウインカーを木刀などでたたいて損壊し、○田○治に対しその顔面を手拳で殴打して同人を転倒させもつて数人共同して○川○弘、○田○治に対し暴行を加えるとともに○川○弘所有の自動二輪車を損壊し

(ロ) ○木○幸に対し、手拳でその顔面を殴打し転倒させたうえ足蹴りをするなどの暴行を加え、下顎骨骨折による治療二ヵ月を要する傷害を負わせ

(2)  同日午後一〇時二五分ごろ、同区○○×丁目×番先○○公園○○交差点附近路上において自動二輪車から降りて集合していた○本○(一七歳)ほか一〇数名の暴走族○○○の構成員に対し「お前ら○○○か」「○○だ文句があるか」などと気勢を示して襲いかかり

(イ) ○本○に対しその顔面を手拳で殴打して転倒させ、足で頭部、背部、腹部等を蹴りつけるなどの暴行を加え、よつて同人に対し顔面挫創による全治一〇日間を要する傷害を与え

(ロ) ○田○男(一七歳)に対し、同人を押倒して足蹴りをしたうえ頭髪を引張つて引起こし頭突きをするなどの暴行を加え、同人所有の眼鏡を踏付けて損壊し

(ハ) ○村○文(一六歳)所有の自動二輪車を転倒させ木刀等で叩き足蹴りするなどしてタンク、バックミラー、サイドカバー等を損壊し

(ニ) ○河○弘(一六歳)所有の自動二輪車を転倒させてクラッチレバーを損壊し

(ホ) ○川○弘(一六歳)所有の自動二輪車を足で蹴るなどして転倒させクラッチ、タンクを損壊し

(ヘ) ○合○昭(一六歳)所有の自動二輪車を木刀等のものでたたきタンク、風防を損壊し

もつて二〇数名共同して○田○男に対し暴行を加えるとともに同人所有の眼鏡を損壊し、さらに○村○丈、○河○弘、○川○弘、○合○昭ら所有の自動二輪車を損壊し、

三  暴走族○○の○○支部長Cほか一〇数名と友好暴走族○○○○の構成員一〇数名とともに、同日午後一一時三〇分ころ東京都板橋区○○町所在の○ュ○ハ○ス○ー○プ○ザ駐車場に於て両グループと対立する○○連合などを襲うことを共謀して自動二輪車などを連らねて新宿附近を捜し廻つていたが昭和五〇年五月一一日午前一時四五分ころ、東京都新宿区○○×丁目××番××号先○○通り路上において○島○(二一歳)運転の普通乗用自動車(○○××○××××)を取り囲んで「てめえ、この野郎、ぶつ殺してやる」などと怒鳴りながら、○島○の顔面を数名が手拳で殴打し、同乗していた○黒○(一七歳)の顔面、頬を手拳で殴打し、さらに○島○の前記車両を蹴るなどしてドア、リヤフェンダー、フェンダーミラー等を損壊し

もつて二〇数名共同して○島○、○黒○に対し暴行を加えるとともに、○島○所有の普通乗用自動を損壊し

たものである。

(法令の適用)

一(1)の事実中○正○、○和○、○信○に対する暴行の点は暴力行為等処罰に関する法律一条(刑法二〇八条)、刑法六〇条

○英○に対する傷害の点は刑法二〇四条、六〇条

一(2)及び(3)の事実中暴行の点は刑法二〇八条、六〇条

○英○、○仁○、○亀○に対する傷害の点はそれぞれ刑法二〇四条、六〇条

二(1)(イ)の事実中暴行の点は暴力行為等処罰に関する法律一条(刑法二〇八条)、刑法六〇条器物損壊の点は同法一条(刑法二六一条)、刑法六〇条

(ロ)の事実刑法二〇四条、六〇条

(2)(イ)の事実刑法二〇四条、六〇条

(ロ)の事実中暴行の点は暴力行為等処罰に関する法律一条(刑法二〇八条)、刑法六〇条器物損壊の点は同法一条(刑法二六一条)、刑法六〇条

(ハ)ないし(ヘ)の事実暴力行為等処罰に関する法律一条(刑法二六一条)、刑法六〇条

三の事実中暴行の点は暴力行為等処罰に関する法律一条(刑法二〇八条)、刑法六〇条

器物損壊の点は同法一条(刑法二六一条)、刑法六〇条

(主文記載の保護処分に付すべき事由)

(1)  少年は昭和四九年一〇月二九日当庁に於て強姦、暴力行為等処罰に関する法律違反、傷害保護事件により保護観察処分に付され、以後○○保護司の指導を受けていた者であるが、本件各非行はいずれも保護観察中になされたものである(但し非行事実中一(1)の非行事実は除く)。

(2)  本件非行事実中一(1)ないし(3)の各事実は、いずれも少年が○○大学附属高等学校一年在学中になされたもので、従来からしばしば行なわれていた○○大学附属高等学校生徒と○○中高級学校生徒との対立抗争事件に類するものであつて、その責任を少年のみに負わせることが出来ないとしても、少年はいずれの事件についても常に率先して積極的に乱闘に参加し、(1)の事件の際は○○学校の生徒の乗車していた○○線内廻りの電車の中に飛び込んでゆき、逃げようとした同校の生徒の後襟をつかんで引倒したうえ両手拳でその顔面を三回位殴打するという暴行を、(2)の事件の際は所持していた洋傘で殴りかかつて暴行を、(3)の事件の際は○○学校の生徒に対し二回位足蹴りをし、その顔面を手拳で一回位殴打するなどの暴行を加える等常に戦闘的に行動していたことが認められる。

また、非行事実中二及び三の非行事実は、いずれも東京都板橋区○○附近にいる○○大学附属高等学校在学生及び同校の中途退学者等を中心に組織された暴走族「○○」○○支部(支部長C)のメンバーとして他の構成員二〇数名と共になしたものであり、事件当日(昭和五〇年五月一〇日)の午後六時ごろ、「○○」○○支部の集会場となつていた東武東上線○○○駅近くの喫茶店に集つた後、大きな喧嘩になるということをC等から聞いたうえ一旦帰宅して喧嘩に備えグループのユニホームになつている戦闘服様の作業服を着て登山用の杖及び「○○」と書かれた旗を持参し、Nの運転する自動二輪車の後部に同乗して同喫茶店を出発し、二(イ)の事件の際は○田○治か○木○夫のどちらかの顔面を数回殴打し、二(ロ)ないし(ヘ)の事件の際は逃げる暴走族グループ○○○構成員の一人に対しその下腹部を左足で蹴りあげ、さらに逃げる同人を追いかけてその尻を蹴とばし、さらに逃げられたとみるや引返して転倒されていたオートバイを蹴飛ばすなどの行為をし、三の事件の際はOの運転する自動二輪車の後部に同乗したまま○島○の運転する自動車の運転席側から運転中の○島○めがけて数回殴りかかるという極めて危険な行為をなしており、少年は暴走族の中でも最も戦闘的といわれている「○○」○○支部構成員の中でも最も行動的な人物の一人と認められる。

(なお三の事件の直後に○○グループは○○交差点附近及び幡ヶ谷で二件の暴力行為事件を起こしているが、少年については事件送致はないものの○○の事件には少年も加担している。)

(3)  以上のように、少年は保護観察中であるにもかかわらず○○大学附属高校の校友たちと暴力事件を起こしたばかりか、前記処分がなされた直後に暴走族○○○○支部の構成員となり以来事件に至るまでの間その集会等に参加して時折他の暴走族とのいざこざにも関与したことがうかがわれる一方、保護者及び保護司はこうした少年の不良交友関係に気ずかず、放置していたことが見受けられる。

(4)  少年が本件のような非行をなした原因の一つとして少年の組暴性の他に○○高校生徒を中心とする○○の構成員等との不良交友関係が考えられ、そうした不良な交友関係の中で少年の粗暴性が発揮されるというところに本少年の行動の特徴があると思われる。そうだとすれば、少年の健全な育成の為にはこうした交友関係を断つことがまず第一であるが、自己顕示性が強く交友関係の中で自己の承認欲求、所属欲求を満たそうとして粗暴性を有する少年たちとの交友関係を深めていつた少年の性格、ただひたすら少年を帰宅させて欲しいと主張するだけで少年の観護について自信のない保護者の態度等からすると仮令保護司の援助があつたとしても現在の交友関係を調整していくことは困難といわざるを得ないし、その他内省心に乏しく短気で粗暴な少年の性格を矯正し、社会規範を甘く見る少年の態度を改善することは、もはや社会内処遇によつては期待し得ないものといわざるを得ない。

よつて少年法二四条一項三号を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 川島貴志郎)

参考 抗告審決定(東京高 昭五〇(く)一二八号 昭五〇・八・一五第一一部決定)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、附添人宮原三男作成名義の抗告申立書および抗告申立の理由と題する書面に記載されたとおりであるから、これらを引用する。

所論は要するに、原決定1の各事実は、少年が通学していた○○大学附属高等学校(以下、単に○○高校という。)の生徒と、かねてより対立抗争関係にあつた○○中高級学校生徒との喧嘩であり、同2の各事実は少年が所属していた暴走族グループと他の暴走族グルーブとの喧嘩であり、いずれも集団同志の喧嘩であつて、少年が単独で犯したものではない。また、少年に対しては、家庭の保護または民間保護施設における観察等の処分を考うべき余地が大きいというべく、原審の中等少年院送致決定の処分は著しく不当である、というにある。

そこで一件記録を調査して検討すると、原審が少年を中等少年院に送致した理由については、原決定が(主文記載の保護処分に付すべき事由)の項で詳細に説示しているところであり、当裁判所も概してこれを是認しうる。すなわち記録によれば、本件は、少年が他の○○高校生と共謀し、昭和四九年九月六日および昭和五〇年一月二七日と二八日の三回にわたり目白駅、池袋駅の各ホームにおいて、○○中高級学校生徒に対し手拳、洋傘などで殴る蹴るなどの暴行を加え計四名に対し全治五日ないし一〇日間の傷害を負わせたほか、昭和五〇年五月一〇日、一一日の二日間に三回にわたり暴走族「○○」の構成員と共謀し、他の暴走族「○○○」などの構成員九名に対し手拳などで殴る蹴るなどの暴行を加え計二名に治療一〇日ないし二か月間の傷害を負わせたうえ、自動二輪車、普通乗用自動車(計六台)、眼鏡を損壊したという事案であること、少年は昭和四九年一〇月二九日に原決定(非行事実)1の各事実摘示と同じ○○中高級学校生徒に対する暴力事犯および強姦の非行などにより東京家庭裁判所において東京保護観察所の保護観察に付する旨の保護処分を受けていたものであるところ、原決定(非行事実)1の(1)の事実(これは右保護観察処分を受ける直前、その審理中に犯したものである。)以外の各事実は、いずれも右保護観察中に、あい次いで犯したものであること、担当の保護司とは連絡をとつていたことは窺われないではないが、少年は保護観察処分を受けた直後に暴走族「○○」に入つたのみならず、本件各非行((原決定(非行事実1の(1))は除く))前後の行動などについては保護者はもちろん、保護司も全く気づいていなかつたことなどを考えると少年が保護司の指導監督に十分服していたとは認められないこと、本件各非行を犯すに至つた経緯、罪質、動機、態様、少年のはたした役割、グループ内の地位などに徴すれば、その犯情は軽視を許されないものがあり、また原決定が(主文記載の保護処分に付すべき事由)の項で説示しているような少年の性格にてらし少年が従来の不良交友関係を断ち切ることは困難であると認められること、少年の家庭は、父が既に死亡しており、母および兄などの家族の保護能力は必ずしも十分でなくあまり期待できず、また他に利用できる適切な社会資源もないことなどを合わせ考えると、少年に対する要保護性は相当に強いものがあるというべく、所論指摘の諸点のほか、少年が本件による観護措置によつて鑑別所に収容され反省していること、現在○○高校を退学し東京都立の定時制高校に通学していることなど少年のために考慮すべき諸事情を十分に参酌しても、原審が、少年の内省心に乏しく短気で粗暴な性格を矯正し、社会規範を甘く見る態度を改善するためには社会内処遇によつては期待し得ず、施設内において専門的指導の下に矯正教育を行うことが、少年の健全な育成を期するうえにおいて必要かつ相当であるとの判断のもとに少年を中等少年院に送致した原決定は是認でき、これを目して処分の著しい不当があるとは到底認められない。論旨は理由がない。

よつて、本件抗告は理由がないから少年法第三三条第一項後段により、これを棄却することとし、少年審判規則第五〇条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 石田一郎 裁判官 柳原嘉藤 小林昇一)

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